心に降り積もる羽(灰)の重さ―『灰の劇場』を読んで

趣味は昔から読書と言いながら、最近全然本が読めていない。

最近ようやく読み終わった本『灰の劇場』(恩田陸著:河出書房新社刊)。

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中年の女性2人が奥多摩の橋の上から飛び降り自殺した……という事件を発端とした小説を書いた作家がそれを劇にするときの心の逡巡を描いている。

 

学生時代に親友だった2人。
それぞれが就職し、一方は結婚して一方は仕事を続けている。
結婚してもしなくてもどこか満たされない2人の女性。
お互い別々の人生を歩むが、いつしか一緒に暮らすことになる。
そして暮らし初めはこれは人生の仮の生活だと思う。どちらかに別のパートナが現れれば又離れ離れになるという一時的な生活のつもり……。
しかし、長い同居生活が当たり前になってしまった。

 

自分のことに置き換えてみた。
大学を出て3、4年目から結婚する人が自分も含めて増えていった時代を思い出す。
友達にはキャリアを積み上げていった人もいる中、自分は結婚、出産、夫の転勤等で仕事を転々と替えていった。

自分が選んだ人生だとしても、選ばなかった立場が羨ましく思える瞬間がある。
もし、あのときああしていれば……。どちらかの立場が入れ替わることになる。

選ばなかった人生のほうがキラキラ輝いて見える不思議……。

 

いつでも、私たちの誰かがこの女性2人になっていてもおかしくない設定である。

そこには、女性は早く結婚をしないという世間の目。
結婚したからには子供を産まないと、というプレッシャー。
その子供を産むにもタイムリミットがある。
さらに昔は同性で暮らしているのはおかしいという世間の目。
低賃金で働いて経済的にも未来が描けない人生……。

刻々と年月だけが過ぎていく。
年齢を重ねていくことがプラスに受け取られればよいが、
女性にとって、さらに昔であれば不安、恐れが灰のように積もっていく。

誰にも当てはまる女性の物語。
読み進めていくと閉塞感ばかり感じられて何だか気が重く、
自分の疲れと相まって、読後も何だかどんよりとしてしまったのである。

今は昔ほど女性だからと言って世間の目を気にする人生、プレッシャーは少なくなっているのかな。誰でも自由に思い描いた人生を選んで生きられればよいのに。

娘たちにも自由にそれぞれの人生を歩んでいってほしい。