忘れられない本……1

今週のお題「読書の秋」

 

本当は「好きな本10選」としてお題に参加したかったが、10選あげるのが何だか大変だったので……。

 

今思い出す限りのものなので、そのとき感動しても忘れてしまった本は残念ながらここにあげられない。

 

1.『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん著:文芸春秋

f:id:katatumuko:20211024214627j:plain

 

第二次世界大戦後に日本軍がソ連軍の捕虜になり、シベリアの酷寒で飢餓と重労働により大勢の人が亡くなった。

抑留中には少しでも仲間を元気づけようと、句会を結成し俳句をよみ合い、「皆で日本に帰るのです」と皆に希望を与えてきた人がいた。

収容所では物資が少ないのでセメント袋を細い短冊に切り、馬の尻尾やロープを筆にし、煤煙を墨の替わりにして工夫して句会を楽しんでいた。

この句会のおかげで仲間たちは日ごろの苦しさも忘れるほどで、辛い強制収容所の生活で、何とか気持ちを奮い立たせていた。

そのせっかく作った俳句の書かれた短冊は句会が終わると土に埋めたり、便所に細かくちぎって捨てた。ソ連軍にスパイ行為を疑われないためである。

この句会を開いていたのは山本幡男さん。実在の人物でこれはノンフィクションである。

この人はとても教養のある人で、その教養をただ自分の保身のためではなく、強制収容所の仲間のために使うところがとても人間的にも尊敬できる人。

この知性、人間性があるこの人のおかげで、精神的に支えられ、生き延びることができた人もいるだろう。

その仲間たちが必死の思いで、ある行動をする。

山本さんと、山本さんを慕う仲間たち……その信じられないような行動が発掘されてこのような本が誕生し、私にとって忘れられない本となったのである。

酷寒の地での、抑圧された過酷な生活……。その中で何とか生き延びようと知恵を出し合い、わずかな食べ物、お金、物資を大切にしていく。

生きていくのに困難な環境の中でも人間性を保つための文化的な生活を送ろうとする……。

この本は手放せなくて、パラっと又読み返してみたのだが、この実話は本当に胸に迫るものがあって、時々読み返したくなるほどの本である。