気働きが出来る人
とある施設の部屋をネットで借りて当日になった。
受付表に記入しようとすると窓口の警備員のおじさんが声をかけてきた。
「この部屋より安い部屋が空いているよ」
……。わざわざ教えてくれるなんて。
「一週間前ぐらいだったら部屋を替えられたのにね」
――そうなんですか……。前に私がネットで見たときはもう塞がっていたんですよね。
「キャンセルしたんだろうね。
いや、今でも大丈夫かもしれないから、私が聞いてきてあげようか」
――えっ、ありがとうございます。
それから数分。
「あっちで手続きしたら替えられるみたいだよ」
――分かりました、ありがとうございます。
私は別の部屋に行き、黙々と手続きをした。
部屋を小さくて安い部屋に借り替えた。
もう、おじさん、親切。
今までこの施設で警備員さん何人もに接してきたが、そこまで親切な人に出会ったことがない。
受付表を「これ書いて」と言われ、鍵と一緒にポンと渡す人がほとんど。
人が安い部屋借りようが、高い部屋借りようが、おじさんにとってはどうでもいいことのはず。
黙っていれば、借りる人は何も知らない。
それを、自分の仕事が増えるのに、お節介なほど人のことにかまってきて、私はもう感動してしまった。
自分の仕事を超えて人が求めていることに手を差し伸べるその心意気に私のハートはわしづかみされた。
笑顔が素敵で、気働きが出来て、そして億劫さを微塵も見せないフットワークの軽さ、その自然なたたずまい。
もうそのどれもが尊敬します。
おじさんが違う職場で……どこかの店員さんだとしたら、ファンになってそのおじさんから物を買いたいと思ってしまうほど。
翻って自分はどうだろう。
そこまで踏み込んで人に親切にしたことがあっただろうか。
これはこうかな、と勝手に楽なほうに解釈したり、気が付かなかったり……。
警備員さんの行いが同じ仕事でも仕事の質に雲泥の差を生むことを考えさせられた。
自分の仕事上、いや人生の上でも尊敬に値する人に出会いました。